論文報告  PLoS One

横尾眞子先生が筆頭著者の論文がPLoS Oneに掲載されました。

2-Hydroxypropyl-β-Cyclodextrin Acts as a Novel Anticancer Agent. PLoS One. 2015 Nov 
4;10(11):e0141946. doi: 10.1371/journal.pone.0141946. eCollection 2015.

http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0141946


腫瘍細胞の増殖や機能維持には細胞内へのコレステロールの取り込み増加が必須とされています。また、腫瘍細胞ではコレステロールを産生するメバロン酸代謝経路が正常細胞の数倍も活性化されていることがわかっています。これらのことから、細胞内のコレステロールは腫瘍細胞の生存を助け、化学療法抵抗性にも寄与していると考えられてきました。

シクロデキストリンは、内腔に種々の分子を包み込む(包接する)ことができる環状オリゴ糖です。包接した分子の安定化や徐放性向上、あるいは難溶性分子の可溶化などが可能となるため、医薬品や食品分野で広く用いられています(消臭スプレーのファブリーズが有名)。その一種、
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CyD) は、難水溶性薬物のイトラコナゾール(商品名:イトリゾール)などのHP-β-CyD含有注射剤に臨床応用されています。また、細胞からコレステロールを引き抜く働きに着目し、製剤添加剤としてではなく、そのもの単体が、小
児の難治性脂肪蓄積病であるNiemann-Pick病C型(NPC)の患者の治療薬として既に使用されてもいます。

私達は、この細胞からコレステロールを引き抜く作用に着目し、HP-β-CyDの抗腫瘍効果について白血病細胞を対象として研究を行いました。その結果、HP-β-CyDはアポトーシスとG2/M期での細胞周期停止を誘導し、時間・用量依存性に白血病細胞の増殖を抑制することが明らかとなり
ました。さらに、白血病幹細胞様形質を示す細胞やABL阻害剤が無効なT315I変異株にもHP-β-CyDは同様に有効でした。したがって、HP-β-CyDは、再発の原因である、ABL阻害剤が無効な白血病幹細胞やT315I変異にも臨床的に有効となる可能性が示されました。

なお、この研究は熊本大学、順天堂大学との共同研究です。この場をかりて深謝致します。


最終更新日:2015年12月8日

(C)佐賀大学医学部附属病院血液・呼吸器・腫瘍内科